福岡高等裁判所 昭和27年(く)8号 決定 1952年2月26日
本籍 朝鮮全○○道○○郡○○面○○番地
住居 福岡市○○町○の組
古罐売買
少年 A
昭和八年十二月十五日生
抗告申立人右親権者 父○奉○
附添人弁護士 内○○太
右Aに対する賍物故買保護事件について、昭和二十七年一月十七日福岡家庭裁判所が言渡した保護処分の決定に対し、右親権者から、抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
原決定を取消す。
本件を原裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の趣意は、
原決定は、少年が清○某から同人が他より窃取した自転車一台を賍物であることを知りながら買受けたものと認定しているけれども、司法警察員作成の金千石の供述調書によると、該自転車は少年の近所に居住する清○某が公然と売込みに来たもので、不正品とは思われない状況にあつたことが推認されるばかりでなく、少年はこれを買受けるに際し売渡証まで徴していることは不正品でないことを確信して買受けたものと思われるに拘らず、原審の審判期日における少年調査官の「当時の状況から判断して不正な品物であるということはわかつていたと思います」との供述のみにより、該知情の点を認定した原決定には重大なる事実の誤認があるといわねばならない。のみならず少年は現在ヒロポン注射を継続している訳でなく、女遊びを頻行したという程でもないし、また家庭内において始終粗暴の行動があるともいえないばかりか、保護者としても決して少年の監護を抛擲しているものではないので、未だ少年院において保護をしなければならない程の必要はなく、少年院の現状からすれば却つて少年の矯正教育の実を挙げ難いと思料されるので、原審が決定した保護処分は著しく不当と考えられる。それで少年を特別少年院に送致する旨の原決定を取消して今一度親兄弟の監護にお任せ願い、少年法第二十四条第一項第一号の保護処分に付せられ度いというにある。
よつて按ずるに、本件記録に徴すると、少年は警察以来終始本件自転車が賍品であることは知らなかつたと述べており、これを買受けるに当り売渡証を取つていることは明かであるとはいえ、該自転車は福岡市○○町○○村の所有にかかり、昭和二十六年十一月二十八日清○某がこれを窃取したものであることが窺われる上に、少年の住居の近隣の古鉄商の手伝をしていた右清○某(当二十六、七年)が前同日福岡市○○○町○丁目ぜんざい屋○○方に買つて呉れと持参したもので、少年は同人がそれまで自転車を所有していたことは知らなかつたのみか該品は新品に近く、時価壱万八千円位に相当し、福岡市の鑑札も附いていたものを時価より遙かに廉い僅か四千五百円で自己の乗用にするため買受けながら、その翌日古罐買集めの資金が必要であつたからとて直ちに六千七百円で売却している事実が認められるので、右のごとき情況から推して、少年が該自転車を買受けるに当り、これが賍物であることの情を知つていたことは肯定できないことはなく、記録を調査しても右のように認定するに支障となる資料は存しないので、少年が賍品であることを知りながら該自転車を買受けた旨の事実を認定した原決定に重大なる事実の誤認があるとすることはできない。
而して記録に現われた少年の学歴、生活経歴、性格から観ると既に相当厳格な保護対策を講ずる必要がある段階に達していることは否み得ないし、家庭の情況その他の環境は現在のままでは少年の監護教育に適当な状況にあるものともいい難いので、少年の保護対策として此の際国家的改善矯正の施設である少年院において少年に対し監護指導を授けることも一応考えられないでもない。しかし、本件記録及び当裁判所の事実取調の結果によると、少年の親兄弟においても将来に向つて少年の健全な育成に対し会く匙を投げているものとは思われないし、幸いに近親者の一人神○○雄において少年を引取り、従来の交友との関係を断たしめ厳重な監護指導をなし、その反社会的非行性格の治癒矯正を計ることを誓つており、その熱意も可成り強固なるものがあることが認められるので、その所期の目的が達し得られることも期待できないではないと思料されるから、今一度親兄弟の監護に委ねることも妥当な措置たるを失わないというべきである。叙上の見地から少年を特別少年院に送致した原決定を取消し、原裁判所において更に適当な保護処分をなすを相当と認めるので、本件を原裁判所に差し戻すこととする。
よつて少年法第三十三条第二項に則り主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)